黒木和雄監督おすすめの映画ランキングTOP5

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黒木和雄監督おすすめの映画ランキングTOP5

若い頃はかなり前衛的な作風が多かったようですが、僕がリアルタイムで知っているのは、市井の人たちの暮らしを穏やかに描いた温かみのある作品たちです。特に、戦時下の人々を描いた一連の作品は、戦争のむごさとともに、人の暮らしの尊さが伝わってきて、とても感動しました。

 

 

第5位.黒木和雄「紙屋悦子の青春」

黒木和雄「紙屋悦子の青春」がおすすめの理由

終戦間近の鹿児島で、兄夫婦と暮らす若い女性の日常を描いた作品。原田知世さんと永瀬正敏さん主演というパッケージから、かなり静謐でシリアスな作風を想像していたのですが、兄夫婦の家族の明るい雰囲気、ヒロインもお転婆とまでは言わないまでも元気なキャラクターで、とても親しみやすい映画でした。主人公2人が初めて会う家の中のシーンは、若い男女の緊張感と慌てぶりがおかしく、兄夫婦の落ち着いた温かさも、良質のホームコメデイのような明るさに満ちています。それでいて、思いを寄せている相手が特攻に志願して離れていくという悲劇、その戦死の報せに涙することさえ、彼女が当然乗り越えなければならなかった青春の一幕として描かれることに衝撃を受けました。長い時間をともに生きてきた現代の2人が、病院の屋上で語り合う黄昏の場面も美しい。彼らの穏やかな語らいが、戦時中の暮らしこそが紛れもない彼らの輝かしい青春の日々だったことを感じさせます。残念ながら遺作になってしまいましたが、黒木監督の晩年の作品に共通する、戦時下だからといって不幸なのではない、ごく普通の人々の日常の尊さを強く感じさせる作品でした。

 

 

第4位.黒木和雄「スリ」

黒木和雄「スリ」がおすすめの理由

アル中に苦しむ初老のスリと、周囲の人々とのやりとりを描く人間ドラマ。現代の片隅で生きるアウトローな男の生き様と再生を描いた、どちらかというと初期の黒木監督作品の延長に来る作品なのかなと思いました。なんと言っても、主人公のスリを演じる原田芳雄さんが素晴らしい。アル中でスリの仕事もままならず、それでも寄る辺ない若者たちを気にかけ、世間とのしがらみを断ちきれない男の生き様を体現して、その存在感にとても惹き付けられました。彼を慕う若者たちが、刹那的なように見えて、実は懸命に自分の人生を模索しているのにも共感させられます。そして、主人公を気にかける、断酒会の世話人の女性のキャラクターも出色。なんやかやと上から彼にアプローチしてくる彼女は、正論過ぎてどこか嘘くさく、演じる風吹ジュンさんが、女性の鬱陶しさを醸し出して絶妙です。しかし、それが彼に通じず、ついにはベロベロに酔っぱらって家に乗り込んで来ちゃうのが可愛らしく、人間味溢れて好きでした。しつこい刑事の石橋蓮司さん含め、大人の人間関係が魅力的な作品でした。

 

 

第3位.黒木和雄「TOMORROW 明日」

黒木和雄「TOMORROW 明日」がおすすめの理由

昭和20年8月8日の正午からほぼまる1日の長崎に暮らすある一家の一日を切り取った作品。この舞台設定は当然、長崎の原爆の悲劇を扱う作品なのですが、しばしば戦時下の話だということさえ忘れてしまうほど、どこにでもある家族の一日が淡々と描かれていきます。一家には3姉妹がいて、次女の結婚式に身重の長女が帰ってくるところから物語が始まります。結婚式と言っても、戦時中なので華やかさはなく、空襲警報で途中散会してしまうようなささやかなもの。それでも、戦時中の暮らしにイメージするような陰惨さはなく、静かに幸福と希望を噛みしめているような若い夫婦の姿が心に残ります。その夜に産気づいた長女の渾身の出産、出征していく恋人との別れに人知れず心を波立たせている三女の青春、娘たちを温かく見守っているお母さん、みんなただ人生を大切に生きている庶民そのもので、彼らが何気なく口にする「明日」という言葉に胸を締め付けられるようでした。言葉のないラストシーンに、一発の爆弾の下にあった無数の人々の営みの重みが伝わって、たじろぐほどの怒りに圧倒されるような映画でした。

 

 

第2位.黒木和雄「父と暮せば」

黒木和雄「父と暮せば」がおすすめの理由

終戦から3年後の広島で、原爆を生き残って一人暮らす女性が、父親の亡霊とのやりとりの中で生きる気持ちを取り戻していく物語。ほぼ父と娘の二人芝居で、娘に芽生えた恋心を感じとって励まそうとする父親と、幸せになることを頑なに拒む娘の対話が、どこかユーモラスな父娘の日常会話の中で進められていきます。それはそのまま、彼女の心の中の葛藤でもあり、父親の亡霊の存在をあくまで娘の心の中だけにとどめた設定が、切なくも温かく心に残るものになっています。父親を演じる原田芳雄さんの温かみ、娘を演じる宮沢りえさんの繊細さが素晴らしい。特に、原爆で大切な人たちをすべて失った娘が切々と語る喪失感の重さは、生き残ってしまった者が抱える理不尽な罪悪感の辛さを突きつけて圧巻でした。原爆投下の地獄絵図を描くのではなく、舞台をそのまま映像化したような淡々とした演出が、娘が静かに前を向いていく心の成長を優しく見守っているようで、メッセージだけではない温かみのある人間ドラマだと思います。

 

 

第1位.黒木和雄「祭りの準備」

黒木和雄「祭りの準備」がおすすめの理由

1970年代の、まだ監督が若い頃と言っていい時代の作品で、高知の田舎町で暮らす若者が、脚本家を夢見て町を飛び出していくまでの物語です。主人公は町ではそこそこのエリートで、手堅い銀行に就職したばかりですが、自分の人生がこの町の中だけで完結してしまうことに強い不安を感じています。彼を取り巻く町の人々は、浮気性のお父さんや、その愛人と取っ組み合いの喧嘩を繰り広げるお母さんなどはまだ可愛い方で、ヒロポン中毒の女と彼女に入れあげる色ボケおじいちゃん、夫婦交換する兄弟など、もうメチャクチャ。このあたりは、初期の黒木監督の前衛モード全開で、強烈なインパクトでした。そんな濃すぎる人間関係の中で、地方に閉じ込められたような閉塞感にとらわれていく彼の不安には素直に共感できます。そしてラスト、町を出ていく主人公が、殺人を犯して追われる身になった悪友と駅で出会うエピソードがいい。悪友が万感の思いを込めて叫ぶ万歳に、思いきりよく飛び出して生きていく者と、追われても地元を離れられない者の対照が際立って、切なく心に残るラストシーンでした。人間の毒を暴くエネルギッシュと、若者の人生を祝福するヒューマニズムが同居した、この時期の黒木監督ならではの傑作だと思います。

 

 

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