黒沢清監督おすすめの映画ランキングTOP5

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黒沢清監督おすすめの映画ランキングTOP5

日本映画の中でもずば抜けて個性派の監督だと思います。美しい悪夢のような映像美と、哲学を思わせる台詞の応酬はいかにもヨーロッパ受けしそうで、時には正直意味不明。しかし、不思議と自分なりの解釈で納得できてしまう世界観が独特で、いつも癖になってしまいます。

 

 

第5位.黒沢清「CURE キュア」

黒沢清「CURE キュア」がおすすめの理由

普通の人々が殺人を犯してしまう不可解な連続殺人事件を巡るサスペンス。「リング」に代表されるホラー邦画ブームの中、何にも似ていない独自のサイコホラー世界を突きつけて、黒沢監督の評価を決定づけた作品だったと思います。平穏に暮らしながら、誰もが普通に抱えているであろうちょっとした苛立ちが、あっさり殺人に転じてしまう境界のなさは衝撃的です。自分は人を殺したりするわけがない、と当然のこととして信じてきたところに、本当にそれがお前の本能なのか?と突きつけられた気がしました。その心のたがを外していくサイコパス?を演じる萩原聖人が繰り返す「いいか、もう一度聞くぞ。お前は誰だ?」という根源的な問いかけが、絶妙に苛立ちを誘って、心を狂わされてしまうこともあるかもと思わされる恐ろしさ。そして、彼を追う立場のはずの役所広司とうじきつよしが、次第に追い詰められていく切羽詰まった狂気も恐ろしく、普通の立場でいたいと願う自分の足元をすくわれているような不安を煽る映画でした。

 

 

第4位.黒沢清「回路」

黒沢清「回路」がおすすめの理由

インターネットを通じて伝播する恐怖に蝕まれていく人々を描いたホラー。パッケージ的には、「リング」のビデオがインターネットに置き換わったようなわかりやすいモダンホラーを想像していたのですが、不穏な映像の中に悪夢的な哲学がしずしずと漂っているような、見たこともない独特なホラーを堪能しました。ここで描かれているのは、幽霊が現れるような恐怖ではなく、自分は結局独りなんじゃないか、他人と繋がることなんて不可能なんじゃないか、という絶望の恐怖だと思います。その恐怖に蝕まれた人たちが、何もかも諦めたようにふっつりと姿を消していく、死んだような街の異様な光景に圧倒されました。特に、ヒロインの目の前で、屋上にぼうっと佇んでいた人影がふと足を踏み出して転落死する、静かなワンカットシーンの衝撃は出色。けれど、そんな廃墟の街の中で、絶望に敗北しながらも抵抗を止めない若者2人の逃避行が続くラストシーンに、ほかの黒沢ホラーにはあまりない微かな希望がある気がしました。バラエティタレントのイメージが強かった加藤晴彦が、異常事態に直面した普通の若者の奮闘を好演して共感させられました。

 

 

第3位.黒沢清「カリスマ」

黒沢清「カリスマ」がおすすめの理由

周囲の森を枯らしていく「カリスマ」と呼ばれる木を巡る人々のせめぎ合い。個性的な作品揃いの黒沢監督ですが、ここまでジャンルを説明しづらいものはちょっとほかにはないかもしれません。森が舞台だけれど、間違っても癒し系のわかりやすいエコ映画などではない。「カリスマ」に破壊される森を守ろうとする人たちと、「カリスマ」こそが森の勝者と信じる人たちの対立は、確かにとてもわかりやすく寓話的です。「カリスマ」の排除を訴える研究者姉妹を演じる風吹ジュンと洞口依子が絶妙に嘘っぽく、よけいにおとぎ話のような世界を感じさせます。けれど、役所広司演じる男がそこに加わったとたん、そのわかりやすい世界が崩れていきます。彼が淡々と問いかける、世界はそんなに秩序立ったものなのか?「カリスマ」も周囲の森も、勝手に生きて勝手に死んでるだけじゃないのか?という問いかけに感化されるように、人々の秩序が崩壊していく姿は恐ろしく、慄然としてしまうような凄みがありました。お前、何やったんだ…という虚ろな声が繰り返される悪夢のようなラストに、この映画のジャンルはホラーだったのかもしれない、と思いました。

 

 

第2位.黒沢清「散歩する侵略者」

黒沢清「散歩する侵略者」がおすすめの理由

人間に取りついて、周囲の人々の「概念」を奪い取っていく宇宙人の静かな侵略を描くSF作品。「概念」を奪われるという斬新な恐怖が、不気味な哲学っぽさが魅力の黒沢ワールドにいかにもピッタリで、これが舞台を下敷きにした原作ものだとは驚きました。血まみれの女子高生がヘラヘラ笑いながら大事故を巻き起こしていく冒頭から、もうシュールなエキセントリック満開でくぎ付けになってしまいます。ぼうっとした風情で概念を奪う松田龍平が、素直なんだけどつかみどころのない宇宙人にピッタリの当たり役。終始プリプリ怒りながら、次第に彼の素直さに惹かれていく長澤まさみも面白い。一方、彼らとは別に動いている高校生の宇宙人2人は、人間への共感も命への執着もゼロな感じが恐ろしく、若手俳優二人がその異様さを堂々と体現して見事でした。宇宙人が爆撃してくるちょっとチープなCGスペクタクルも見応えあり。「愛」の概念を与えたことの顛末、傷つきながらも復興していこうというラストの空気には哀しみと温かみが漂い、独特のイマジネーションの中に一風変わった人間讃歌が流れているようで好きでした。

 

 

第1位.黒沢清「ニンゲン合格」

黒沢清「ニンゲン合格」がおすすめの理由

中学生で事故に遭い、10年間の意識不明から目覚めた青年が、その間にバラバラになった家族との関係を認識していく物語。あらすじからは、家族再生のヒューマンドラマを想像していたのですが、さすがは黒沢監督らしく一筋縄ではいかない、しかし確かに優しい目線で若者の人生を描いた作品でした。目覚めた青年を迎えに来るのは、不法投棄がらみの商売をしている、いかにも怪しい叔父。彼から空白の10年の間に経験するはずだったあれこれを教わるのですが、青年を演じる西島秀俊はあまりに淡々としていて、10年の眠りから覚めた!というドラマチックさは全くありません。バラバラになってしまった家族それぞれの現状を「ふーん、そう」と受け入れる彼のポーカーフェイスは、その裏にある孤独、よりどころのなさが感じられるようで、切ない存在感に打たれました。彼が妙に執着するポニー牧場のもとに、一瞬だけ家族が揃うシーンは、儚い中にも確かに家族だからこその温もりが伝わってきて大好きです。寓話として完結する潔さ、「お前は確かに存在した」という言葉の温かさとユーモア、監督一流の不可思議な哲学とヒューマニズムが合体した傑作だと思います。

 

 

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